瑠璃色の姫君
と思っていたのだが。
「うひゃっ、バベル後ろ見て!」
「えっ?」
うわぁぁあ、怖い……!
背後から迫ってくるのは、黒の見るからに執事というような服を着た長身の男。
手をピシッと揃えて腕を真っ直ぐ振って走ってくる。
それに怯えるようにフリュイが足をより早く動かした。
「ひぃいいいいっ」
そのせいで、フリュイが僕より前に出る。
ちょっと待て!
僕の真ん前来るな!
走りにくいじゃない、かっ!
「わっ」
最悪。
ほら、言わんこっちゃない。
フリュイの足を踏みつけて、バランスを崩し僕の体は前に倒れた。
その拍子に、フリュイの体も斜めに。
ああ、本当に最悪。
このままだとフリュイに覆い被さって潰してしまう。
でも助けられない。
僕だってバランスを崩してしまっていて助けたところでたぶん変わらない。
「ジル!!」
聞こえたその凛とした声は馬車にいるであろうと予想した人物の声で。
声と共に、後ろにいたはずの男がすごい速さで回り込んでフリュイと僕を同時に抱きとめた。
「大事ないでしょうか、バベル様」
「ああ。ありがとう、ジル」
「お役に立てたなら幸いです」
至ってクールに安定した涼しげな表情でジルが僕たちから手を離す。
立ち上がった僕は、振り返り凛とした声の主を視界に入れた。