瑠璃色の姫君




天真爛漫で子供のようなレティシアは、怒りに任せて怒るだろう。


そう考えたのだが。



「違うよ、怒るのは多分ほんの少しの間だけ」


「え?」


「怒るよりも、悲しむと思うよ」


「悲しむ……」



フリュイの口から出た言葉は、予想してなかったもので、僕は無意識にそれを繰り返し言った。



悲しむ、か。


レティシアが、悲しむ。


そんなところ一度も見たことがない。



「バベルってさ、自分ばっかりが王女のこと好きだと思ってるでしょ」


「え、うん……ずっと片想いしてて僕の方が先に好きになったと思ってるから」



急な問いかけに動揺しながら、そう答えるとフリュイは大袈裟にため息をついた。



「最後の手紙読み返せ、ばーか」



最後の、手紙。


言われるまま、封筒を取り出しておもむろに便箋を広げる。



“バベルが私に求婚してくれる日が
1日でも早く訪れますように”



「それ読んでもわかんないわけ?」


「……」


「求婚されるの待ってるんだよ?」


「うん」


「それがどういうことなのか、しっかり考えてよ」


「うん、……うん」



言葉で聞いたわけではないからか実感が湧かなくて、忘れてしまいそうになっていたんだ。


悲しむ。


そうだね、悲しむよね。


そんなレティシアなんて見たくない。


見たいはずもない。



「ありがとうフリュイ」


「何が? フリュイ特に何もしてないよ。思ったこと言っただけ」



そう言うと思った。


でもわかってるよ、耳がほんのり赤くなっているのが見えているから。



「そうだね、でも言わせて。ありがとう」


「ふんっ」




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