瑠璃色の姫君
*愛しの君
***
額に汗が伝う。
色んな香りが鼻をくすぐる。
街中の女の子達が声をかけてくれる。
いつもは足を止めるそれらを全て振り切って、僕は全速力で走っていた。
目指す先は、あの場所。
息を切らして、街中を、城下を駆け抜ける。
そうして着いた目的地の入り口に、一度立ち止まった。
胸に手を当てて、大きく息を吐き荒くなってしまった息を整える。
そこは、数ヶ月ぶりのシュトラント城。
僕が城から抜け出してきた、ルリマツリの花園に続く抜け穴。
久しぶりに通るそこは、何も変わらず華やかなルリマツリを咲かせている。
変わっているのは、ここを出てきた時よりも少し冷たい空気になったこと。
それから、僕の心や想いの強さ。
「……ただいま」
小さく、囁くように息を吐く。
そして、花園の奥へ僕は足を踏み入れた。
入った途端に、ルディが気持ち良さげに上空に高く飛び上がった。
風が吹くたびに、ルリマツリが合唱をするようにさわさわとなびく。
まるで、僕の帰りを歓迎しているかのようだと思える。
その情景が懐かしくて、レティシアとのかくれんぼを思い起こさせて、僕は微笑んだ。