瑠璃色の姫君
「あれ、口紅まだ塗ってないの?」
頬や目元は綺麗にメイクアップされているのに、唇だけが素のままの薄い桃色だった。
「……うん」
「なんで?」
うちの侍女達はしっかりしているから、口紅だけ塗るのを忘れるとは到底思えない。
「……頼んだから」
「まだ塗らないで、って?」
「……うん」
少し置いてから答えてくるその反応に、僕は首を傾げた。
何故まだ塗らないで、と頼んだのだろう。
……わからない。
うーん、うーん………?
額を離して、ぐるぐる部屋を見ながら考える。
どこかに何かキーワードあったりしないかなー?
「………したかったから」
「え、何て?」
あーっ、しまった。
考えていたせいで、聞き逃した。
すぐに口をつぐんでしまったあたり、もしかしなくてもレティの言葉は大切なことだったのかもしれない。