瑠璃色の姫君
彼女の瑠璃色は、ルリマツリの花の中に上手く隠れこんでいて、探しても探しても一向に見つからない。
花園を駆け回った僕は、疲れてへたり込んでしまった。
そして、もう一度決して大きくはなく、少し疲れが滲み出た大きさで声を上げた。
「もーお、いいかぁーい」
探し出して少し経ってからの “もういいかい” は、降参の合図だ。
彼女を相手にすると、自分から降参するのは何度目か数えられないくらいの数になり、僕が彼女に勝ったことは一度も無い。
「もういいよー」
僕のすぐ前の花からひょっこり顔を出した彼女は、ふふ、と笑った。
「また私の勝ちだね」
その自慢気な顔は、ちょっとムカつくけれどその笑顔にドキッともする。
「レティが隠れるの上手いから見つけるの大変なんだよ。……本当は降参なんてしたくないんだけどさ」
そう言えば、彼女は嬉しそうに微笑んで、それから僕を見つめた。
「次は、バベルに私のこと見つけてほしいな」
「でもそうするとレティの負けだよ?」
そう問えば、彼女は「いいの」と首を縦に振った。
男なのに僕が負けっぱなしだと、だらしないから応援してくれているのかな。
頑張ろうかなぁ、と軽く思っていたのだが、彼女の次の言葉で僕の気持ちは変わった。
「他の誰かじゃなくて、バベルに見つけてほしいの」
「………!」
瞬時に熱くなった胸に手を当てた。
恥ずかしさで少し火照る僕の頬を、彼女の両手が包み込んだ。
「期待、してもいい?」
覗き込んでくる彼女は最高に可愛くて。
すごくドキドキして。
なんだか嬉しくて。
「うんっ!」
自然と首が動き、力一杯頷いていた。
次は絶対にレティシアを僕が見つける、と心に決めた。
ルリマツリの花々は、風に煽られて合唱をしているかのように揺らめいた。