瑠璃色の姫君
「だってバタバタしている時に話すのやだもん」
レティシアの主張に、確かに朝はバタバタだ、と思った。
それに彼女は基本寝ぼけているし。
「わかった。じゃあまた改めて」
しゅるりとネクタイを締めながら、半身で振り返りそう言うとレティシアがくすくすと笑った。
「何?」
そう尋ねれば、笑い声と共に返ってきたのは。
「バベルかぁっこいいー」
なんてちょっとふざけた褒め言葉。
だけどそれも彼女が言うとなると嬉しいもので。
「ありがと」
素直にお礼を言いたくなるのだ。
ついでに手の甲で口を隠したくもなる。
「じゃあ僕、仕事行くから」
了解の意味で、ひらりと彼女が手をあげる。
さてさて。
本日の仕事を始めましょう。
「アドルフ、お待たせー」
「はい、お待ちしておりました」
わざわざ待ってた、て言うか?
やな奴だな。
と言っても、彼は僕にとっては友人のようなもので。
「アドルフ生意気」
「言っときますけど、私の方が年食ってますから」
「“私”とか言うな、気持ち悪い。いつも通り“俺”でいい」
「ならば仰せのままに」
「はいはい。いちいち頭下げなくていいから」
こういう風な会話をする仲である。