瑠璃色の姫君




「だってバタバタしている時に話すのやだもん」


レティシアの主張に、確かに朝はバタバタだ、と思った。


それに彼女は基本寝ぼけているし。



「わかった。じゃあまた改めて」



しゅるりとネクタイを締めながら、半身で振り返りそう言うとレティシアがくすくすと笑った。



「何?」



そう尋ねれば、笑い声と共に返ってきたのは。



「バベルかぁっこいいー」



なんてちょっとふざけた褒め言葉。


だけどそれも彼女が言うとなると嬉しいもので。



「ありがと」



素直にお礼を言いたくなるのだ。


ついでに手の甲で口を隠したくもなる。



「じゃあ僕、仕事行くから」



了解の意味で、ひらりと彼女が手をあげる。


さてさて。


本日の仕事を始めましょう。



「アドルフ、お待たせー」


「はい、お待ちしておりました」



わざわざ待ってた、て言うか?


やな奴だな。


と言っても、彼は僕にとっては友人のようなもので。



「アドルフ生意気」


「言っときますけど、私の方が年食ってますから」


「“私”とか言うな、気持ち悪い。いつも通り“俺”でいい」


「ならば仰せのままに」


「はいはい。いちいち頭下げなくていいから」



こういう風な会話をする仲である。




< 205 / 248 >

この作品をシェア

pagetop