瑠璃色の姫君




どうやら声に出てしまっていたらしい。


きょとん、とした顔のままバベルの方を向くと、頬の肉を摘まれた。



「あのね、どんなレティシアもレティシアらしくて愛しくてすんごく可愛いんだよ。わかった?」


「……いひゃい」


「わかった!?」


「わかっら、わかっらから!」



よし、と手が頬から離される。


もう、何、何なの。


甘いなぁ、と思ったら、途端に頬摘んできて痛いし、でも結局言ってること甘いし。



「僕のこと呼びにきたんでしょ。行こ」


「ちょっと、先行ってて」


「ん? わかったけど、早く来てね」



頬の痛みと恥ずかしさに眉根を寄せていた私をぎゅう、と抱きしめた後バベルは部屋を出ていった。



「………ばぁか」



しんとした部屋には自分の声が響く。


何なんだ、私のこと大好きか。


手で頬を包ませながら、ティーカップの中身を見てみると、ほんの少しだけ残っていた。


こくり、喉に通す。



「うー……」



ダージリンの味に少し顔をしかめた私だが、それでも飲み干して、ソファを立ち上がった。


やっぱり味はそうでもなくても、ダージリンの香りは好きだ。



「なにが私のこと大好きか、だ。私の方がバベルのこと大好きかって」



床に転がっていた丸まった紙を蹴飛ばしてゴミ箱に入れて、私は部屋を後にした。



バベルの部屋は、ココアとダージリンのほのかな柔らかい香りに包まれていた。




fin.

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