瑠璃色の姫君
*
「ロゼア様ー」
「……」
「ロゼア様、どちらにいらっしゃるんです?」
「……」
「どうかお願い致しますから、お答えくださいロゼア様!」
い・や・よ。
先に言っておくけれど、これはバベルとレティシアの大好きな〝かくれんぼ〟とやらではない、と思う。
私の名前を呼ぶ声に、できるだけ耳を貸さないようにして木の下の木陰で涼む。
法学の勉強が終わってすぐに、彼から逃げられるよう走ったせいで地味に疲れているからか、うとうと。
ちょっぴり眠たくなってきてしまったわ。
「──ロゼアお嬢様」
遠いどこからか大好きな優しい声が降り注ぎ、私はその者の名を口にした。
「……ジル兄さん」
どこからか伸びてきた小さな手に誘われて、そのまま夢の世界に足を踏み入れた。
*
「お嬢様、そこは危ないです。お手を」
「ん」
庭にある噴水の周りを歩こうと登った私をジル兄さんが見上げる。
まだ小さい私には、ジル兄さんが差し伸べてくれた手を繋ぎきれない高さまで登れないため、きゅっと手を繋ぐことができる。
「ジル兄さんの手、あったかい」
「……〝兄さん〟はやめてください」
「やだ。ジル兄さんはジル兄さんだもん」
ぷくーっと膨らませた頬でジル兄さんを睨む。