瑠璃色の姫君
ああ、やってしまった。
でも自業自得だ。
言ったことは守らなきゃ。
「誰にも言わないって約束出来る?」
「ええ、言いません」
「実は、」
ボソボソ、とカウンター越しの彼女の耳に出来るだけ口を近付けて話す。
「えっ、瑠璃姫様を探しに行くんですか!」
「しーっ、しーっ!」
わざわざ小声で伝えたのに、驚いたセイラは、僕が言った言葉を大声で繰り返した。
「ご、ごめんなさい…!」
「ったくもう、もう言っちゃダメだからね」
「気をつけます」
しおらしくなるセイラの頭を撫でてあげる。
瑠璃姫、というのは、簡潔に言うと瑠璃色の髪をした隣国オリーヴェンのお姫様である。
どうやら少し前から城からいなくなってしまい行方不明らしいのだ。
「バベル様」
セイラは、頭から僕の手が離されると、トングを持ってもう1つコロネを袋に包んだ。
「健闘を祈ります」
差し出されたコロネを、僕は遠慮なく笑顔で受け取った。
「ありがとう。またコロネ買いに来るね」
「はい、待ってますね」
ニコニコとするセイラに、僕もまた同じ様な笑みを返した。
「じゃあまたね、セイラ」
右手をひらりと降って、パン屋から離れて見知った街並みを歩き出そうとした時だった。