瑠璃色の姫君
ぐい、と服の裾を引っ張られた。
「うおっ」
突然のことに、体がついて行かず、傾いた。
おっとっと、とよろめきながらも態勢を立て直し、僕は引っ張られた服の方に顔を向けた。
「少年、何してるのかな」
そこにいた、くるくるした短い茶色の髪をした可愛らしい少年の桜色の綺麗な瞳とばっちり目が合った。
「連れてって」
裾をまた、ぐいっと引っ張られた。
「え? 何て言った?」
「連れてって」
……何を言うんだ、この少年は。
少年を凝視していると、セイラの声が聞こえた。
「フリュイ、バカなこと言わないの。あなたは売り子の仕事があるでしょう」
セイラの目は、僕を見上げる少年に注がれている。
どうやら少年の名は、フリュイ、といい、このパン屋で面倒を見ているらしい。
呼ばれた少年は、セイラに目を向け「思ったこと言ったの」と平然としている。
肝っ玉の据わった子のようだ。
「少年、悪いけど君は連れて行けない」
僕は少し腰を屈めて少年に目線を合わせた。
間髪を入れず少年は質問してくる。
「なんで?」
こら、とセイラが少年の肩を揺さぶるが少年は御構い無しに僕をじっと見つめる。
「僕1人の方が都合が良さそうだからだよ」
人数が増えるだけ、レティシアを探し出す前に見つかって、城に連れ戻される危険が伴う。
だから、僕の服を摘む少年の手に自分のを重ね、服から手をほどかせた。