瑠璃色の姫君
えっ………。
絶句した僕の目の前をリーシャの手が行き来する。
「ば、バベルー…ごめん嘘…」
それでも呆然とする僕に、リーシャは眉を垂らして謝ってきたけれど。
それこそ嘘だよね。
機嫌とりしてるの丸わかり。
だってあんなにも追い詰められて大声で言ってしまった言葉が嘘なわけない。
それが嘘なのだとしたら、相当な策略家とでもいえよう。
「すんごくかっこいい男の人って言ったよね?」
「……はい」
「僕よりかっこいい人?」
「……バベルと同じくらい、かな」
「そう……」
僕と同じくらいのかっこいい男の人って。
僕の顔は一言で言うと、王子の名に恥じない以上整っている。
よくそう言われる。
それに、街の女の子達によく好かれるような顔をしているのだ。
ということは。
レティシアがその者に恋心なんて抱く可能性がゼロとは言えない、かもしれない。
もっとも、僕は彼女に恋愛感情を抱いているけれど、彼女から僕へそのような感情を抱いているといったことはよく考えれば聞いたことがない。
聞いたことが、ない。
なんてことだ。
僕がこうしてのんびりしている間に、その男にレティシアの心を奪われてしまったら!
奪う以前に僕が掴みきれていないかもしれないけれど!
とにかく早くレティシアとその男を離さなくては!
立ち上がった僕に、リーシャがビクリと体を震わせた。
ごおっと燃えるように力を込めた拳をカウンターに叩きつけたせいだ。