瑠璃色の姫君
「体の調子はどうだ?」
「ちょっと大丈夫になったよ」
「そうか、良かった」
にへらっと笑うフリュイ。
それを見て、僕は少しぎょっとした。
そんな弱々しい笑みを見たことがない。
いつでも、僕よりも毅然としていて判断力のある彼。
子供っぽく元気のある少年だが、何度となく敵から見つからないように注意してくれたり、僕を助けてくれた。
そんな彼が初めて見せた弱々しい笑み。
体が弱っているからか、今まで見せてこなかった表情が、こぼれてしまったのかもしれない。
フリュイの前髪に手を伸ばす。
くるくるとした髪は、巻かずとも巻いてあり熱があっても躍動感がある。
その髪を人差し指でくるくると回して、それを解いて、僕はフリュイの頭を撫でた。
「バベル、手繋いで?」
トロンとした瞳で、フリュイが微笑む。
何故か一瞬の迷いがあったけれど、寝るまででいいから、と言われ僕は布団から少し出されたフリュイの手を繋いだ。
「バベルの手あったかい」
ふわりと嬉しげに眉を垂らすフリュイに、何故か胸がざわつく。
「なんだか、安心するなぁ……」
細められたフリュイの瞼が、だんだんと落ちていく。
「すき………」
目を完全に閉じる直前、溢されたその言葉に僕は目を見開いて動けなくなった。
胸は、先程とは比べ物にならないくらい元気よく飛び跳ねていて。
騒めきが収まらない。
やばい。
やばいやばいやばい。
空いている方の手の甲で、僕は口元を覆った。
「びっくりしすぎだろう、僕……」
垂れた頭は、誰に垂らしたものか。
窓も開いていない部屋に、思い出の花の香りが立ち込めた。