瑠璃色の姫君
「兄ちゃん、顔赤いけどどうした?」
部屋に入ってきたゼノが、僕を見て目を丸くした。
その姿を見て、道理でと思った。
彼の手には、ルリマツリが握られている。
「なんでもない。それよりそれは?」
平然を装って、僕はゼノが持つ花を指差した。
胸の騒めきを、収めていく。
「フリュイの好きな花」
「そうなのか?」
「うん。熱が出た時はいつもこの花の香りがあるとすぐ治るんだって」
高さの低い花瓶にルリマツリを挿して、ゼノはフリュイを眺めた。
「なんだ、もう平気そうじゃん」
さっきは辛そうだったから心配してたけど、なぁんだ、とゼノは口を尖らせる。
それから、繋がれた僕とフリュイの手を見て
「兄ちゃんのパワーかもしれないね」
と、意地悪そうな笑顔を浮かべた。
「は?」
なんだそりゃ。
僕のパワーで治るものか。
「だって、ね、フリュイは兄ちゃんのこと大好きみたいなんだもん」
リーシャみたいに好きな人には素直じゃないやつだから知らなかったかな、とくすくす楽しげにそう言うゼノ。
それは言いようによっては、リーシャが自分のことが好きなのだと知っているようだ。
だけど、それよりも前の一言で僕は止まっていた。
“ 兄ちゃんのこと大好きみたいなんだもん ”
一度落ち着いてきていた胸が、また音を立て始める。
なんだこれ。
なんだ、なんなのだ。
どうしたらいい。
わからない。わからないよ。
鼓動が手に伝わるようで、フリュイと繋ぐ手が汗ばんでくる。
1人で慌てて挙動不審になりかけていた時、頭の中で彼女が掠めた。
“ バベル ”
落ち着け、落ち着くんだ。
あのルリマツリの庭園での、彼女の輝くような眩しい笑みを思い出す。
思い出して、その余韻に浸る。
息を深く吸って、吐いて。