瑠璃色の姫君
「兄ちゃん、大丈夫?」
「あ、ああ。大丈夫だ」
そう、大丈夫だ。
この動悸は特に何でもない。
何でもないのだから。
リーシャがご飯作ってくれたから食べに行こう、とゼノが僕を引っ張った。
だけど繋がれた手を見て「ご飯持ってくるね」と微笑まれる。
「いや、降りるよ」
「フリュイの側にいてあげてよ」
首を振ったゼノは、親指を立てて部屋を出て行った。
その閉められた扉を開け見つめて、それからフリュイの寝顔を眺める。
幾分か顔色が良くなってきたその姿は、美少年なだけあって実に幻想的と言えそうな雰囲気を醸し出していた。
頬を少し摘めば、ふにっと手に吸い付くような感触。
むにゃむにゃと何か寝言を言いながら、手が一層強く繋がれる。
その様子に微笑ましくなりながらも、心は何かを僕に訴えかけているようで。
「レティシア……」
呟いた声は、誰に届くこともなく、部屋の中でゆっくりと儚げに消えていった。