瑠璃色の姫君



***



「あーきっつー」



額の汗を腕で拭う。


城でも馬の世話はよくしていたけれど、こんなに多くの馬の世話はしたことがない。


大抵、自分の愛馬とお気に入りの可愛らしい馬と兄弟の馬をたまに見たり、とそんなものだったから。


それに城にいる馬はいつも誰かしらが世話をしていて、基本的には常に綺麗に保たれていたからそんなに世話をすることがなかったのだ。



「旅に出てから人生経験値上がったな」



本当にそう思う。


城にいたりたまに抜け出して街中を見て回っていた今までだったら、経験出来ないことを沢山している。


例えば、偽レティシアを懸命に追いかけるとか。


側にいる騎士に見つかってはいけなくて、息を殺して隠れるとか。


そんなに多くもなかったかな。


でも、確実に日々経験したことのないことをしている。



「充実してんなぁ」



旅に出てきて良かった。


レティシアのことしか考えずに出てきたのは無謀だったと言えるけれど、でも自分が物事を即決する人間で良かった。


あれ、ナルシストみたいになった。



「ナルシストなのはいつもじゃん?」


「は?」


「王子なのに王子なのに、ってよく言うじゃん。まあ、事実だけどさ」



ほい、と水を僕に手渡して、近くの椅子に座るガキ。



「まーた声漏れてたよー」


「うっさい。今までどこ行ってたんだよ」


「ちょっとお散歩してたんですー」


「何してんだよ、手伝えよ」


「やーなこった」



一休みしようと、ブラシをフックにかける。


ニヤニヤと唇を歪めるフリュイを不思議に思いながら、水を口に含んだ。



「なっ!」



なんだこれ!


苦味のある味に、思わず舌を出した。



「きゃははははっ、バベル最高!」



水じゃなかったのか?


フリュイの笑い声に気分を悪くしながら、飲んだそれを見てみる。


鮮やかな緑色をした、その飲み物。



「ここで抹茶セレクトって」



どういう観点なんだよ。


そりゃ、苦いわけだよ。


ヒーヒー言って目の端に涙を溜めるフリュイ。


最近悪行が凄いのですが。


なに、僕でストレス発散でもしてるわけ?


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