チェロ弾きの上司。
で、そのセレブ夫妻が、三神さん先導で、何故かあたしたちの方にやってくる。

「ど、どうしましょう、逃げたら失礼ですよね……」
小声でつぶやくと、
「オレも逃げたい」
と小声で返ってきた。
うそっ。真木さんが微妙に困った顔してるよ⁉︎

三神さんがニコニコしながら、旦那様に真木さんを示した。

「久しぶり、真木君」

「覚えていていただけたとは、光栄です」
ソツなくご挨拶する様は、さすがビジネスマン。

旦那様は、にっこり笑った。

「ずいぶん感情の幅が広い演奏をするようになったね。いい意味で見違えたよ」

……真木さん、すんごく複雑そうな顔をしてる。

「特にここ数ヶ月の変わりようをお聴かせしたかったです」
三神さんが言った。

へえ。変わったんだ? あたしには分からなかったけど。

「セカンドの彼女も、いい仕事してましたね」

へっ⁉︎ あたし⁉︎

微笑みを向けられて、あまりの眩しさに目がくらんだ。
無理。イケメンにセレブオーラとか、レベル高すぎ。直視できない。

「望月さん、ご紹介しますね。こちら、私の夫です」
早瀬先生が言うと、
「失礼しました。早瀬鷹彦です」
と旦那様がおっしゃった。

びっくり。

ほんとのセレブは一般人にも礼儀正しいときいたことあるけど、まさしく!

あたしは慌てて頭を下げ、
「望月雅といいます」
と名乗った。

「三神君の妹弟子なんだそうだね? 設楽さんのところは面白いヴァイオリニストが育ちますね。非常に興味深い」

……面白い?
……困って三神さんを見ると、苦笑してる。

早瀬先生は笑ってうなづき、旦那様に、
「望月さんは、オケの曲、暗譜で弾くのよ」
とおっしゃった。

うそーっ⁉︎
何でご存知なの⁉︎
しかも名前まで覚えられてるし!

「指揮台からはいろいろ見えて面白いのよ」
早瀬先生はあたしに向かってにっこり笑う。
ああ、これまた眩しすぎます……!




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