チェロ弾きの上司。
予想通り、綺麗な顔が、冷たくて皮肉げな笑いを浮かべる。

あたしは、いつもより切れ味が数段上回る嫌味が降ってくることを覚悟し、身構えた。


「甘いな。将来のこと考えたことあるのか。ああそうか、なるほど。そうやって気楽に仕事して、いずれは結婚して、旦那に養ってもらうのか。いい計画じゃないか」


……ショックなんてもんじゃなかった。

足元が、ゆらりと揺れた気さえ、した。


あたしは奥歯を噛み締める。
泣いちゃだめ。
こんなの、覚悟してたじゃない。


……覚悟、してたけど、

……悲しかった。

真木さんは口は悪いけど、人を傷つけるような発言をする人じゃないと思ってた。

あぁ、そっか。
嫌われちゃったんだ……。


もう、この会社にいられないのかな。

普通の会社なら、異動を断ればどうなるかくらい、あたしにもわかる。
この会社には、今のあたし以下のポストはない。


どうせ辞めさせられるんなら、後任の人のために、言うべきことは言わなきゃ。

あたしは勇気を振り絞って、真木さんの冷たい目を見つめた。

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