チェロ弾きの上司。
三神さんが立ち上がった。

「トップは後ろ見てください。ファースト、ヴィオラ、チェロ、前2人ずつ。ビブラートかけないで、ずっとフォルテで。早瀬さん、インテンポで叩いてください」

ぎゃー、来た!

シンとするなか、早瀬先生のタクトが譜面台を叩く。

あたしは今日は5番目に座ってるから、次に弾かされる。

最近練習してないから、自信ない。どうしよう。

さすが、前に座ってる人はほぼ問題ない。
チェロの真木さん含め。

ってことは音程悪くしてるのは後ろの方だということで。


「次、残り」

あたし達の番。
非常に緊張する。

こういうときの三神さん、すごく怖いんだ。
何もかも見透かされてそうで。

ヴァイオリン3人と、ヴィオラ2人、チェロ2人の音だけが練習室に響く。

弦楽器が高い音をとるのに、明確な目安はない。
目で見てこの辺はこの音、とか、手のこの部分が当たる場所がこの音、とか個人の目安はあるけど、演奏中はそんなの当てにできない。
身体で覚えた勘だけが頼り。

この勘、練習しないと、途端に鈍る。

やば、ポジション移動で外した。
高音だから1ミリずれただけで音が外れる。
ついビブラートをかけて誤魔化そうとすると、
「ノンビブラート!」
三神さんの厳しい声が飛んでくる。

全然弾けない……。
音程悪くしてるの、あたしだ。

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