チェロ弾きの上司。
だめだ。
タイムリミット。
終わらない。

あたしは電話を持って廊下に出た。

三神さんの携帯に電話する。

練習を休む時はパートリーダーに口頭で伝えるのがうちのオケのルール。

仕事が終わらないので休ませていただきます、と言うと、お疲れ様、の後、静かに、

『真木と何かあった?』

ときかれた。

静かだけど、誤魔化しは通用しない、三神さん独特の雰囲気。

何て答えよう……。

迷った末、
「……嫌われてしまいました」
と、答えた。

せっかくの好意を受け入れられず、怒らせて、軽蔑されて、嫌われてしまいました。

カルテットやってた時は、あんなに楽しくて、幸せだったのに。
しりとりだってしたのに。
もう、あんな関係に戻れないのかと思ったら、思わず泣きそうになる。

「すみません、失礼します」

電話の向こうで三神さんが何か言ってた気もするけど、指は通話終了ボタンを押していた。

ここ、会社。仕事中。
泣いてる場合じゃない。


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