チェロ弾きの上司。

「大丈夫ですか、望月さん、自分帰りますけど……」

午後7時。
最後まで残っていた野原くんがおずおずと声をかけてくれた。
水曜日は基本ノー残業デー。みんな帰ってる。
野原くんはあたしよりひとつ年下。結婚していて、先月赤ちゃんが産まれたばかり。早く帰らせてあげたい。

「ありがとう。あたしももうすぐ終わるから気にしないで。お疲れ様」


最後のひとりになってしまった。

机に突っ伏す。

お腹痛い。腰痛い。頭痛い。気持ち悪い。
もうやだ。
女になんか生まれなきゃ良かった。


能率が上がらないまま仕事をして。
何とか終わらせると、午後9時。

帰る前にトイレに行く。

立ち上がると、くらっときた。

あ、やばい。

とりあえず個室を出て、ゆっくり歩き、手を洗ってると、
キーン、
と耳鳴りがしてきた。

わ、
これは、
来る。

身体が重い。
ゆっくりとしか動けない。

視界がモノクロになってきた。

トイレで倒れるのは嫌だなぁ、と思い、何とか廊下に出た。

……そこで、意識が途切れた。



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