チェロ弾きの上司。
「おいっ、望月!」
人の声で目を覚ました。
ええと、下は硬い。冷たい。寒い。
あちゃー、やっちゃった。
でも。
この声、真木さんだ……。
よりにもよって……。
人の気配がして、上半身を起こされる。
不覚にも、男の人に抱き締められるのって、気持ちいいんだなぁ、なんて思ってしまった。
あったかくて、安心できて……。
ほのかに香水のいい香りもするし……。
冷たっ!
頬にひんやりした手が触れた。
その冷たさに我に帰り、慌てて目を開ける。
視界には、真木さんのブランド物のベージュ色のスプリングコート。
何考えてたの、自分!
これ、真木さんだから! 上司だから!
抱き締められてるんじゃなくて、抱き起こされてるだけだし!
寝ぼけてる場合じゃない!
「よかった、生きてた」
ほっとした声が頭の上から声が降ってきた。
「大丈夫か? 病院行くか?」
いつもより優しい口調で話してくれて。
あたし達の間の距離感が、前のものに戻っているのがわかった。
なぜかすごくほっとした。
急激に気分が上昇していく。
何これ。
呼吸法やら、食事やら、運動やら、瞑想やら、ありとあらゆる鬱気分対策を試したけど、ひとりの人の優しい言葉や態度でこんなに気分が晴れる、って、何。