チェロ弾きの上司。



あたしは、仕事が終わると、一目散に家に帰る。

市の端っこの駅近くのアパート。
アパートといっても、なかなかオシャレなのが自慢。
スタイリッシュな外観の二戸×二階建ての棟が敷地内に点在していて、小さな街みたいになってるの。
みんな角部屋というわけ。

隣の棟とはある程度離れているし、雨戸があるし、楽器を弾くには好条件。
家賃は高いけど、そこは節約しながら何とかやってる。


手早く晩御飯を作って、食べる。
身体と節約のためには自炊が一番。

ごちそうさまをすると、食器を流し台に置き、雨戸をガラガラと閉める。
手を洗う。
ヴァイオリンケースを出してきて、テーブルに置く。
出しっ放しの譜面台にスケール教本を広げる。

楽器を弾く時間は、午後9時までと自主的に決めている。
あと2時間ない。

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