チェロ弾きの上司。
と思った瞬間、真木さんの腕の中にいた。

あったかくて、
気持ちよくて、
真木さんのスパイシーな香りがして……。

「ばーか。本番前にケガしたらどうすんだよ」

上から降ってきた声に我に帰る。

やばい。うっとりしてる場合じゃなかった。

「だ、誰のせいだと思ってるんですか!」

じたばたと抵抗する。

「大人しくしろって」

「無理ですっ! 日本人なので、付き合ってもない男の人にこういうことされるのは、道徳観念上無理なんです! ほんと勘弁してください……!」

「ふーん」

真木さんはやっと解放してくれた。

大きく呼吸をする。
もー、本番前に体力消耗させるとか、何てことしてくれるんですか⁉︎

肩で息をしているあたしの顔を、真木さんが覗き込んでくる。


「じゃあ、付き合おう」


……。

な。
ななな。

何ですって⁉


あたしと真木さん。
真木さんとあたし。

いやいやいや。
絶対釣り合わないし!
ってか、上司だし!
恋愛対象として見たことないし!
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