チェロ弾きの上司。

後半は、サン=サーンスの交響曲第3番『オルガン付き』。


アダージョの序奏を弾いた瞬間。

鳥肌がたって、涙がにじんできた。

あまりにも和音が美しくて。
この美しい音楽を奏でられることが幸せで。

これって、こんなに美しい曲だったんだ。

提示部に入る前の休みで、涙をぬぐうと、隣の稲森君がぎょっとしてる。
この後、ほぼ弾きっぱなしなんだもん、ここで拭いておかないと。文句ある?


それにしても……。
何だか今までと聞こえ方が違う。

細かい音まで聞こえる。
キラキラして聞こえる。

この音型たまんない。
何、このハーモニーの美しさ。
何、このアンサンブルの重なり方。

鳥肌たちまくり。
好きすぎて、胸が苦しくなる。

この曲を奏でてる中に、あたしも一員として存在できるなんて、なんて幸せなんだろう。

そして、真木さんの姿は見えないけど、不思議なことに、確かに存在を感じる。

真木さんが弾いてると思うと、今までよりも低弦の動きが気になり、そうして聴いてみると、改めて曲のかっこよさを感じてぐっとくる。
うわー、今まで勿体無いことしてたなぁ。
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