チェロ弾きの上司。
第1楽章後半、ポコ アダージョからオルガンが入って。

例の、練習でつかまった、弦楽器のオモテがゆっくりと美しいメロディを奏でる箇所。

弦楽器裏のピチカートが複雑に絡み合い、オルガンが美しい和音を響かせる中、あたしは、これでもか!というくらいビブラートをきかせ、歌う。

だって、モルト・エスプレッシーヴォ=非常に感情をこめて。

この曲が好き。
オーケストラが好き。
ヴァイオリンが好き。
そして……彼が、好き。

いろんな好きの感情をこめて、
こうして弾ける感謝をこめて。
お客様の心に届くように。

オクターブ違いで弾くチェロとヴィオラに支えられ、高音の響きを飛ばす。

少しずつクレッシェンド……

最高音でフォルテ!

前からはとんでもなく美しいヴァイオリンの音色が聞こえてくる。
そして、信じられないことに、美しいチェロの音色も。

好きな人と一緒に、音楽ができるって、こんなにも幸せなことなんだ……。

たまらず、涙がこぼれおちた。

また楽器に涙の跡がついちゃうや……。

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