チェロ弾きの上司。

打ち上げの後。
当然のように真木さんに送ってもらう羽目になり。

ただいま2人で駅に向かっている。

「……では、ここまでで結構です。ありがとうございました」
駅に着いたので、そう言って立ち去ろうとする。
真木さんのマンションはこの駅の近くだ。

「お前やっぱり酔ってるだろ。荷物忘れてる」

そういえば、真木さんにステージ衣装入れた大きなバッグと花束持ってもらってたんだっけ。
真木さんは楽器と荷物は一旦家に置いてきたんだろう、手ぶらだったので。

「あ、ありがとうございました」
あたしが受け取ろうとすると、ひょいとかわされた。

「お前んちまで送る」

真木さんはそう言い、さっさと改札に入ってく。

あーもー。
今まで意識してなかったのに、好きだって自覚すると、ドキドキするから困る。

電車の中では、ちらちら真木さんを見る女性がいる。
そうですよね、見ちゃいますよね、こんなにかっこよかったら……。

はぁ……。
“好き”と、“付き合う”の間には、高い壁があるな、こりゃ……。

それはあたかも、楽器や音楽が“好き”と“弾ける”には高い壁があるようなもので……。

はぁ。どうしよう。
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