チェロ弾きの上司。


「で、お前は?」

ただいま、ローテーブルを挟んで、向かい合っております。

あたしはテーブルの木目模様をじっと見つめる。

「…………」

「答える言葉を探してるのか、黙秘か、どっちだ」

会社でのお説教のようだ。

「……考えてます」

「何を」

「何であたしなんですか」

「……うーん、何となく?」

「…………」

「仕方ないだろ、自覚したの今日なんだから」

わ。照れてる?

「何か自分がおかしいとは思ってたんだけどな。
今はっきりしてるのは、オレはお前じゃなきゃ嫌だし、他の奴に渡すのはもっと嫌だってことだ。
理由は後で考えとくよ」

……照れるのはあたしの方でした。

「今の問題は、お前とオレが付き合うのに、とりあえず合意が必要だってことだ。
で、付き合うってことでいいだろ」

……勢いに押されて、思わず、はい、って言いそうになるけど。

いやいや! ちょっと待って!

「付き合うって、どんなことをするんでしょうか……」

「もしかして、男と付き合うの、初めてか?」

「いえ……1度くらいはありますが……」

「ふぅん。……そうだな。オレは……

お前といられればそれでいいや」

はっ⁉︎

今、信じられない言葉をきいた気がする。

「お前が笑ってるの、近くで見られれば、それでいい」

……うそ。

今、ものすごいこと、言われたよね?
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