チェロ弾きの上司。

「家でもよく働くな」

「いえ、緊張してるだけです。ひとりの時はのんびりしてます」

「緊張?」

「その……好きな人と……しかも真木さんみたいなかっこいい人と、こうしているのに慣れていないので……」

あたしはカップを見つめながらごにょごにょ答える。

「……早くお茶飲んじゃえよ」

「熱いのでそんなに一気には……」

「じゃあ仕方ないか」

真木さんはあたしの方に身体を滑らせ、あたしを後ろからそっと抱きしめた。

うわぁっ!
びっくりしてお茶こぼしそうになったじゃないですか!
曲がりなりにもヴァイオリン弾き、指に火傷はごめんこうむりたい!

「オレはこうしとくから、頑張ってさっさと飲んじゃえよ」

「ドキドキして、お茶飲むどころではありませんが……」

「冷めたらまずいだろ?」

「それなりにおいしいです」

「じゃあカップ置け」

……はい。
あたしはテーブルの中央にカップを置き、空いた手で、あたしの身体の前にある真木さんの腕にそっと触れた。

こんなことできるなんて、夢みたい。

「さっきからずっと……」

真木さんがあたしの耳元に唇を寄せる。

うわ、心臓痛いっ。
顔熱くなってきた!

「健全なお前をどう乱れさせようかと考えてた」
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