チェロ弾きの上司。


翌日、月曜日夜。
仕事の後で、待ち合わせ場所に指定された定食屋さんにやって来た。

「あらあらまあまあ、いらっしゃい!」

おかみさんは、あたし達と同じオケでヴィオラを弾く和歌子さん。
接客業のせいか、50代には見えないくらい、若々しい。
あたしたちを見て、少し驚くも、ニコニコして歓迎してくれた。

ちなみに料理人が旦那様。同じくオケでファゴットを吹いてらっしゃる。(茶色くて長い筒を抱えるようにして吹く、低い音が出る木管楽器です)

「三神さんの彼女さん、どんな人なんでしょうね。ドキドキします」
「意味わかんね」
「えー、お友達の彼女さんですよ?」
「興味はある」
「ほら」
「ドキドキはしない」
「はぁ。でも長いこと片想いだったんですよね。良かったですね」
「片想いなんて単語、久々にきいたな」
「そりゃ真木さんは……。
……何でもないです」
「何だよ、言えよ」
「いえ、何でもないです」
「言わないと後でどうなるかわかってんだろ」

「…………すぐ口説かれました。しかもかなり強引でした。片想いなんてされたことないんだろうなって」

「……お前が初めてだよ」

「は?」

「自分から好きになって手に入れたいと思ったの」
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