チェロ弾きの上司。
……何か、きいてはいけないことをきいた気がする。
真木さんも、すんごく複雑な顔してるし。
まあ、確かに、お友達のそういう会話はちょっと恥ずかしいよね。
「お茶飲んだら帰るぞ。あんな甘ったるい会話聞いてられるか」
「あら〜、真木くんだって、さっきあま〜いセリフ言ってたくせに。うふっ」
和歌子さんがお膳を下げに来て、とんでもないことを言った。
「客の会話聞くのは接客業としていかがなものかと思いますが」
「ごめんなさいね〜。つい。オケの子だから気になっちゃうのよ〜。若いっていいわね〜。おばちゃんうらやましいっ」
お店を出て車に乗り込むと、真木さんが言った。
「あいつ、彼女に速攻で手を出してるぞ。あんなんで尊敬できるか?」
「ええっと、人は見かけによらないと言いますか……。片想いが長かったからですかね〜?」
「オレの方がよほど紳士的じゃないか」
いや、それもどうかと思いますが……。
家まで送ってもらった。
アパートに着いた車の中で、もうちょっと一緒にいたいな、と思って、思い切ってきいてみた。
「コーヒー、飲んでいかれますか?」
「あー、……いや、やめとく」
そっか。残念。
「たぶんこの状況でお前んち行ったら押し倒しそうな気がする」
……うわぁ。前言撤回。
「週末まで我慢するから、覚悟しとけ」
……うわぁ。どうしよ……。