チェロ弾きの上司。

……何か、きいてはいけないことをきいた気がする。

真木さんも、すんごく複雑な顔してるし。
まあ、確かに、お友達のそういう会話はちょっと恥ずかしいよね。

「お茶飲んだら帰るぞ。あんな甘ったるい会話聞いてられるか」

「あら〜、真木くんだって、さっきあま〜いセリフ言ってたくせに。うふっ」
和歌子さんがお膳を下げに来て、とんでもないことを言った。

「客の会話聞くのは接客業としていかがなものかと思いますが」

「ごめんなさいね〜。つい。オケの子だから気になっちゃうのよ〜。若いっていいわね〜。おばちゃんうらやましいっ」



お店を出て車に乗り込むと、真木さんが言った。

「あいつ、彼女に速攻で手を出してるぞ。あんなんで尊敬できるか?」

「ええっと、人は見かけによらないと言いますか……。片想いが長かったからですかね〜?」

「オレの方がよほど紳士的じゃないか」

いや、それもどうかと思いますが……。



家まで送ってもらった。
アパートに着いた車の中で、もうちょっと一緒にいたいな、と思って、思い切ってきいてみた。

「コーヒー、飲んでいかれますか?」

「あー、……いや、やめとく」

そっか。残念。

「たぶんこの状況でお前んち行ったら押し倒しそうな気がする」

……うわぁ。前言撤回。

「週末まで我慢するから、覚悟しとけ」

……うわぁ。どうしよ……。


< 183 / 230 >

この作品をシェア

pagetop