チェロ弾きの上司。

「ストップ」

47小節目、ソロがいったん休みになるところで、早瀬先生が曲を止めた。

「こんな感じですが、気合い入れ直しますか?」

みんなを見回し、最後にコンミスの永野さんを見た。

「申し訳ありません、最初からお願いします」

痛い。

暗に、おまえら、甘い、って言われた。

そういえば三神さん、最初に言ってたじゃない。
それ相応の覚悟をもってやる、って。

「三神も途中から緩めるな」

「すみません」

三神さん、しれっとしてるけど、うそ、何、全力じゃないの? あれで⁉︎


その後、下手なりに頑張ったけど。
ソロと同じメロディをオケがやると、あまりのぬるさに落ち込んだ。
音符は難しくないのに、何この表現力の差。



メンコンの練習の終わりに、早瀬先生が言った。

「本番まであと4カ月弱。一歩ずつ進んでいきましょう」

「少しよろしいですか」
真木さんが手を上げた。

「どうぞ?」

「ソリストは今日よりあと何割増しにするつもりですか」

そうか。そうだよね。
三神さん、これよりもっと完成度高めてくるよね。

みんなが、しかも早瀬先生まで見つめる中、三神さんは苦笑いして真木さんを見た。

「うーん、倍くらいには上手くなりたいですね」


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