チェロ弾きの上司。

「練習するなら、この部屋使え」
と言ってくれたので、ありがたく使わせていただこう。
窓がない部屋。
壁が厚そう。
さすが高級マンション。


と。真木さんもチェロケースを広げた。

弓を張る仕草や、
松脂を塗る仕草や、
エンドピンを伸ばす仕草が……

あれれ。
カルテットの時にも見てるはずなのに、今日はきゅんとするの、何でだろう。

「何?」

「いえ、あの、一緒の部屋だと練習のお邪魔かなぁ、って……」

ってか、あたしがドキドキして練習にならない。
下手なヴァイオリン聞かれるのも恥ずかしいし……。

「じゃあリビングで1時間弾いてこい。その後合わせてやるよ」

「へっ?」

「同じ曲だろ? せっかくだから合わせて遊ぼう」

うわぁ。楽しそう!

「はいっ!」



……って、選んだのが、グレートの4楽章とか、ほんっと性格悪いんじゃないですか⁉︎

だって、チェロが長い音をべーっと伸ばしたり四分音符弾いたりと簡単なことやってるのに、ファーストヴァイオリンのあたしは細かい音をチャカチャカまたはタリラリ弾かなきゃならないのよ。しかもかなり長い間!

「リズムだれてきてるぞ」
「今の音程怪しいな」
ビシバシツッコミ入るし!
遊びのレベルじゃない!

くそー。

でも、悔しいことに、真木さんほんと上手い。
支えられてるって安心感が格別。

しかもやっぱりかっこいいし……。
入りを合わせるのに、アイコンタクトして、一緒にブレスすると、胸がきゅんとする。

チェロ弾きの彼氏だなんて、贅沢だなぁ……。

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