チェロ弾きの上司。

ぐったり横たわり、息を切らしながら涙を流すあたしの頭を、響也さんが優しくなでてくれる。

好きな人に満たしてもらって、
好きな人を満たすことができて、
なんて幸せなんだろう。
今なら、世界中でいちばん、あたしが幸せだと思う。

「あたし……初めてが響也さんでよかったです……」

響也さんに出会うまで、とっておいてよかった。
神さまから、今まで地味に真面目に生きてきたご褒美をもらった気がした。

「優しくしてくれて、ありがと……」

あたしが言うと、響也さんは、ニヤっと笑った。

「今日だけな」

はいっ⁉︎
普通ここは、『当たり前だろ』とか言って、かっこよく決めるとこじゃないんですか⁉︎

「今日はだいぶ手加減してやったんだ、ありがたく思え。次からは、セックスが甘ったるいもんだけじゃないって教えてやるよ」

な。
なな。
余韻とか、ないんですか⁉︎
涙が引っ込みましたけど⁉︎

「雅はなかなか勘がいい。楽しみだな」

嬉しそうに、歌うように言う。

もう……!

でも、心の中では、ちょっと楽しみ、なんて思ってしまうあたり、あたしも結構頭おかしいのかもしれない。


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