チェロ弾きの上司。
倉庫にパイプ椅子を片付けていると、誰か入ってくる音がした。
「お疲れ様でした」
と振り返ると。
「お疲れ、モッチー」
ほら出た。ネチネチ嫌味言いそうなチェロケース背負った人が。
ガチャン、と閉まる鉄製のドア。
光は非常灯のみ。
緑の光が、壮絶に美しいけど不機嫌オーラ満開の響也さんを彩る。
「公衆の面前で手を握られてイチャつくとは、なかなかいい度胸じゃないか」
「別にイチャついてません。たくさん練習してるからうまいですね、ってほめられただけです。ちゃんと彼氏いるって言いましたもん」
「ふーん」
「お説教は後でうかがいます。今日はこの後……?」
「会社に戻るから、今説教しに来たんだよ」
響也さんはチェロケースを下ろして、あたしに近づいてくる。
あたしは後ずさり、奥の壁際に追い詰められる。
縮まる距離。
嫌な予感。
これはまさかの。
か、か、壁ドン!
「誰か来たら困りますから……!」
「お前、自覚が足んないんだよ。最近色っぽくなってるの、わかってるか?」
「……そうなんですか?」
全っ然自覚ございませんが。
「そうなんだよ」
「だとしたら、響也さんのせいです。あたしをそんな風にしたの、響也さんじゃないですか」
響也さんは、驚きに目を見開いてから、ため息をついた。
「ほんとに、お前は……。その転調っぷり……」