チェロ弾きの上司。
席に戻り、ため息をついた。

「どうしたの、望月さん」

隣から佐倉さんが声をかけてきてくれた。

「真木くん、あのエステティシャンに迫られてた?」
佐倉さんがひそひそ声で言うので、あたしも小さな声で
「肩もみされてました……」
と言うと、佐倉さんが机を音を立てずに叩きながら、これまた声を立てずに笑った。

「やー、やるな。さすが、自分の武器をわかってる。あの歳で自分の店持てるだけあるわー。よし、望月さん、ちょっと早いけどお茶休憩しよう!」



「で、落ち込んでる? それとも怒ってる?」

休憩室で2人きり。
コーヒーを飲みながら、佐倉さんが言った。
あたしは水筒のお茶を飲む。

「その前に、あの……」

御存知なんですか?
真木さんは、社長にだけは報告しておくって言ってたけど。

「うふふ。春頃、2人の様子が今までと違うな〜と思ったから、社長にカマかけてみたの」

社長! 引っかかっちゃったんですか!
ま、相手が佐倉さんなら仕方ないか……。
ってか、会社では今まで通りにしてたつもりだったんだけどなぁ……。

「で、『あたしの彼に手を出さないで!』って言ってきた?」

「言えるわけないじゃないですか! それに……クライアントさんとのこと、あたしが口を出す立場にありませんから」

「あらま、大人。真木くんにも見習ってほしいものだわ」

ほんとです。

「じゃあね、お姉さんがいいこと教えてあげる」

はい、何でしょう?

「望月さんには、使ってない武器があるじゃないの」

「……武器、ですか?」


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