チェロ弾きの上司。

ドキドキしながらチャイムを鳴らすと、響也さんが玄関を開けてくれた。

「お邪魔します……」

「どうぞ」

……反応、なし。

そうかぁ。
あたしの顔なんて見てないか。
気にもしてないか。


晩御飯を作って、食べて。
いつもと同じ感じ。
結局自己満足で終わりそう。
まあ、いいけど。

「定演の前売り、順調だな」

響也さんが、カーペットに座るあたしの膝の上に頭を乗せて寝転がった格好で、タブレットを見ながら言った。

定演のポスターは響也さんがデザインした。
例の、三神さんのシルエットをどーんと映したポスター。
かっこいい!オシャレ!ってオケのみんなにも好評。

その他、SNSなんかも活用して、低コストで効果が期待できる宣伝を仕掛けてるらしい。

生き生きして仕事?してる響也さんは、やっぱりかっこいい。

「さすが響也さんです」

と言うと、

「もっとほめて?」

なんて言う。

最近、たまに、こんな風に甘えてくることがある。
仕事で疲れていそうな時に多い。
男の人は男の人で、大変なことがあるんだろうなぁ。

「響也さんはできる男です。天才です」

言いながら、頭をよしよししてあげる。柔らかい髪の毛が気持ちいい。
響也さんも気持ちよさそうにしてる。
……猫みたい?



「響也さん、お風呂洗ってありますか?」
「ああ。だけど、今日はシャワーにしろ」
「はい?」

湯船に浸かるのは、体調維持に重要なんですが……。

「首から下だけ、シャワー浴びてこい」

……えっと。

「今日はメイクしてるお前の顔見ながら抱くことにする」

ぎゃー‼︎
気づいてたんじゃないですか!

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