チェロ弾きの上司。

布団に入り、向き合う。

いつも後ろから抱き締められて始まるから、正面から向き合って始まるのは、理性が残っててかなり恥ずかしい。

「やばいな、その顔。いつにも増して色っぽいとか、誘ってんのか」

「……三神さんの彼女さんにやっていただきました」

「ほお。さすがだな」

「さすがです! できるお方でした!」

「そりゃそうだろ、あいつが好きになる相手だ」

「早く仲直りできるといいですね」

好き合ってても、気持ちがすれ違うことはあるわけで。
もしかしたらこの先、あたしと響也さんとの間にもそういうことが起こるかもしれないわけで。

すると、今、好きな人とこうして気持ちを通わせ合えるっていうのは、奇跡的なことなんじゃないかと思えてきた。

あたしはたまらず、響也さんを見つめる。

「……だからその目。誘ってるってことだろ?」

「はい……だって……」

幸せすぎます。
だから、
あなたも幸せにしてあげたい。

あたしは響也さんの唇に自分の唇を重ねた。

だけど、すぐに主導権を奪われる。

愛されるのはとても幸せだけど、
愛してみたいと、ちょっとだけ思った。
でも、変態と思われるかもしれないし……。
響也さんに言う勇気もない。
満足させられる自信もない。

贅沢な悩みは、理性が飛ばされ、考えられなくなった。


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