チェロ弾きの上司。
チェロ弾きの上司かつ恋人との秋
早瀬先生の予言通り、ほんとに数段上げてきた!
ただいま、秋の定期演奏会本番中。
メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲。
三神さんからは、すさまじい気迫が発散されてる。
アマチュアで音楽をやる覚悟とか、
彼女を愛する覚悟とか、
三神さんの強い気持ちが伝わってきて。
早瀬先生がかつて三神さんを評して言っていた、“人に何かを与えられる音楽家”という言葉が、実感できた。
第1楽章のカデンツァ。
官能的とまで言えるほどの愛があふれたフレージングと音色に、胸が締め付けられる。うっとり聴けるかと思ってたら、とんでもなかった。
早瀬先生はじっと聴き入っているけど、瞳がうるんでる。あたしはそれにもじんときた。
第2楽章、アンダンテ。
緩徐楽章こそ、その人の音楽性が表れると思う。
三神さんの“聴かせる”テクニックと、歌心、すごい。
第一部は、甘く包み込むように。
中間部、曲は一転、翳りをおびる。
ここで、ソロヴァイオリンがメロディと32分音符の伴奏を同時に弾く。
あたしは自分で弾いた時、この二重奏法が一番苦手だった。
二本の弦を同時に弾きながら、片方の弦はメロディの音を押さえて、もう片方の弦をタリラリ叩いてると、指がつりそうになるのよ! かといって左手にばかり意識をやると、右手がおろそかになって、音のバランスがおかしくなる。伴奏はオケにやらせればいいじゃないの!と、何度メンデルスゾーンを呪ったことか。
三神さんのすごいところは、完璧なテクニックで弾きこなして、難しさを感じさせないこと! これがどれだけすごいか。声を大にしてお客さんに言いたい。
第3楽章、アレグロ・モルト ヴィヴァーチェ。
ソリストの高度な技術をこれでもかと見せつけられる。
三神さんは人間技とは思えないことをやりながら、楽しそうにオケの各パートトップとアイコンタクトをとり、音楽を紡いでいく。
あたし達も夢中で一緒に走ってる感じ。
気を緩めると振り落とされそうな緊張感。
やっぱり三神さん、実は厳しい。
高いところからおいでおいでされてるみたい。
でも、頑張ってそれに応えると、とんでもなく気持ちいい景色が広がってる。