チェロ弾きの上司。

ラスト一音の響きがやむと、嵐のような拍手と、ブラボーの声!
満員に近いお客さんからの拍手って、こんなにすごいんだ!
あたし達オケのメンバーも、三神さんに拍手を送る。

あたしは拍手しながら、華子先生の言葉を思い出してた。

弾ける人がどれだけすごいか。
どれだけ努力してきたか。

自分で曲に挑戦したおかげで、それがわかる。華子先生に今さらながら感謝しなきゃ。

そして。
三神さんがオケ側を向き、笑顔でありがとう、と会釈する。
汗だくで、目は赤くて。
思わずもらい泣き。
……お父さんとお母さんには、会えましたか?

あなたは、本当に、すごいです。
尊敬します。
あなたと一緒に音楽ができて、ほんとに幸せです。



拍手が止まず、カーテンコールが繰り返される。

「もう、はけよう」
三神さんが小さな声で早瀬さんと永野さんに言ったら。

「何言ってんの。この拍手よ。アンコールやりなさいよ」
「はっ⁉︎ 最初にやるつもりないって言っただろ。アマチュアがおこがましい」
「アマとか関係ありません。みんな聴きたいですよ。弾ける曲ありますよね?」
「彼女だけに向けたメンコンだったんだから、アンコールくらい、みんなに向けて弾きなさいよ」

「そーだそーだ」
あろうことか、真木さんまで口はさんできてるし!


で、やってくれました。さすが三神さん。
バッハのブーレ。
濃密なホールの空気を、爽やかに変えていく。
もー、ガン見しちゃった。
素敵すぎるー!

< 215 / 230 >

この作品をシェア

pagetop