チェロ弾きの上司。
あー、手をつなぎたいのに、あいにく2人とも荷物で両手がふさがってる。

「どした?」

「手をつなぎたいのに、つなげないなぁって」

響也さんが立ち止まる。
つられてあたしも。

「そんなときは、これしかないな」

響也さんがかがんで、綺麗な顔が近づいてくる。

キス、される?

と思ってまぶたを閉じかけると、響也さんは動きを止め、片方の口角をきゅっと上げた。

うわ、ここで⁉︎

「はい、どうぞ」

「はっ?」

「手をつなぎたいけどつなげないっていうから、キスさせてやるよ」

な。
なな。

もう。
この人はこれだから!

かないません!

あたしは、愛しい人の、美しい頬に、そっと口づけた。





< 221 / 230 >

この作品をシェア

pagetop