チェロ弾きの上司。
いつもの牛丼屋にやってきた。
安い。早い。鉄分補給できる。
「真木さん、超上手かったね〜! かっこいいし! あたし近くで弾いたんだけど、すごかったよー!」
アカリンが目をキラキラさせながら言う。
確かにね、顔はキレイですよ。
チェロも上手いですよ。
「……性格悪そう」
「そーお? ちゃんと藤波さんに気を遣ってたよ?」
藤波さんとは、チェロのパートリーダーのおじさん。
温和で人望があり、音楽的にも造詣が深く、みんなから一目置かれているおじさんだ。
真木さんはたぶん、藤波さんより上手い。
新入りが一番上手いってのも、人間関係の面からして、なかなか難しいものだ。
三神さんが5年前に入ってきた時はどうだったっけ?
大学の卒業記念演奏会でチャイコのコンチェルト弾いた、めちゃくちゃ上手い人が入ってくるっていうから、みんな心の準備をしてすんなり受け入れてたな。
当時のコンミス(コンサートマスターが女性だと、コンサートミストレス。略してコンミス)は、後釜ができたと喜び、結婚と出産を決めたくらいだ。ちなみに今は育休中。
三神さんが入って初めての合奏、ファーストヴァイオリンがいきなり上手くなってるって指揮者がびっくりしてた。
後ろの方にひとりしっかり弾ける人がいると、周りもそれに合わせるから、全体がレベルアップするんだよね。
今日のチェロもそんな風だったんだと思う。