チェロ弾きの上司。


やばーい。
頭の中、すでにシェヘラザード。
三神さんが弾く姿を想像しては、ニヤニヤしてしまう。

……だめだめ。ここ、会社。仕事中。
いくら数字打ち込みの単純作業とはいえ……、
ま、いいか。ダブルチェックするし。

三神さん、どんな風に弾くんだろ……
端正、華麗、高貴……

「望月」

「はいっ!」

真木さんが斜め後ろに立ってた!
気づかなかった!
今日は隣の佐倉さんがお休みだから、教えてくれる人いないし!

「これ、パワポにしといて」

何やら手書きの文字や図が書かれた紙が数枚。
さっきまで社長と打ち合わせしてたから、その記録なんだろうけど……。
何じゃこりゃ。これ、真木さんの字⁉︎
達筆すぎて読みづらい……しかも英語が所々に……

「何か」

「いえっ、いつまでにお渡しすればよろしいでしょうかっ」

「今日中。ボーッとしてニヤニヤするくらいの時間はあるんだろ」

……恥ずかしさ、再び。
……見られてたのか。

「何かいいことでもあったのか」

ありましたとも!
あなたには絶対言えませんが。

とはもちろん言えないので、何て返そうか悩んでいると、真木さんが言った。
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