チェロ弾きの上司。


そして翌日月曜日。

まだ昨日の響きが身体に残ってる。
時折思い出してはニヤニヤしたり、じんとしたり。

最低限の仕事をこなし、定時になった。
疲れてるから、早く帰ろ。

フロアのみんなに挨拶する。
真木さんは……いない。

廊下に出ると、ガラス貼りの休憩室でコーヒーを飲んでいるのが見えた。

挨拶しようかどうしようか迷っていると、あたしに気づいた真木さんが、ちょいちょいと指であたしを呼んだ。
そんなキザな仕草も似合うのが憎らしい。

何だろ、仕事の指示かな。
もう業務終了時間だから、勘弁してほしいなぁ……。

あたしはのろのろと休憩室のドアを開けた。

「お疲れ様です……」

「望月、今日は調子悪いのか。よくぼうっとしてたが」

ひゃー。
昨日のこと考えてぼうっとしてました、なんて言えない。

あたしが真木さんの胸の辺りを見ながら、何て返事しようか考えていると。


「それはそうか。ゲネプロやって、本番泣きながら弾いて、打ち上げであれだけはしゃいでれば、仕方ない」



< 43 / 230 >

この作品をシェア

pagetop