チェロ弾きの上司。
そして、チェロのソロがやってくる。

ソロといっても木管やホルンの伴奏。
3音上がって3音下がる一小節で海の波を表現し、その音型を延々繰り返す。

ヴァイオリンは休みだから、ガン見してやろ。

と思ってたけど。

聴くなり、
……上から見物しようとして、申し訳ございませんでした。
と頭を下げたくなった。


チェロを弾く人を初めて美しいと思った。

柔らかなボウイング。
迷いなく指板を叩く指。
コントロールされたビブラート。
背筋を伸ばした姿勢。
楽器に添えられた長い脚。


美しい弾き姿で奏でられる音楽は、期待通りに美しい。

そして、
……優しい。
楽器を、音を、慈しむように、弾く。

最初にきいたバッハの印象は、間違いじゃなかった。

単純な音型なのに、何でこんなに豊かな表現ができるんだろう。

海の波に優しく揺られてるみたい。

しかも、木管のソロの微妙なテンポの揺れにぴったりつける余裕。

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