チェロ弾きの上司。
「何だと思う?」
「うーん、西洋の棺桶っぽいですけど。ドラキュラとか入ってそうな」
ドラキュラ入るには小さいでしょ。
真木さんは、あたしの後ろを通る。
「望月は?」
……来たよ。
来ると思ってましたよ。
席に着いてチェロケースを下ろした真木さんを見ると、それはそれは楽しそうに、片方の口角を上げて笑ってる。
覚えた。
真木さんのこのニヤリとした笑みは、サディスティックスイッチが入ってる時だって。
ここで、知りませんと答えようものなら、後でどんな仕打ちをされるか。
あたしは立ち上がったパソコンのディスプレイを見ながら、苦いものを飲み込んだ気分で、言った。
「……チェロケースじゃないですか」
「さすが。正解」
なにが、さすが、ですか!
「へー、チェロ! 真木さん、チェロ弾かれるんですか!」
「まあな」
野原くん、その人、すんごい上手いから。
「今日は何かあるんですか?」
「夜にオーケストラの練習がある」
「はー! すごいっすね!」
今まで、真木さんは水曜日は午後外出して、直帰にしてることが多かった。
今日の夕方は社長たちとミーティングがあるから、会社から直接練習に行けるように楽器持ってきたんだろう。
「それにしても、望月さん、よくわかりましたね〜!」
いや、野原くん、こっちに話振らなくていいから。
「あはは、形で、何となく?」
真木さんがどんな顔してるかなんて、見たくもない。