チェロ弾きの上司。
「望月さん、そろそろ真木のこと呼んできてくれない?」
三神さんに言われ、練習室へと向かう。
聞こえてきたのは……
何やら現代っぽい曲。
しかも変拍子が入った。
ひゃー。
激しい。
あまりの迫力に圧倒されてしまう。
真木さん、こんな激しい弾き方もできるんだ……。
今日は初めて知ることがたくさんあるなぁ。
音がやんだところで、すかさずドアを開けた。
真木さんがびくりとしてる。
「おまっ、ノックくらいしろよ!」
「あ、すみません」
……照れてる?
聴かれたくなかったのかな?
「ごはんできますよ」
「あーそんな時間? 片付けてから行く」
「誰の曲ですか?」
真木さんは、信じられない、という顔であたしを見た。
え。そんなに有名?
チェロの曲あまり聴かないからなぁ。
しかも現代っぽいのはほぼ聴かない。
「ショスタコーヴィチだ。チェロ協奏曲第1番第4楽章」
あー。交響曲第5番が有名な人ね。
あとはヴァイオリン協奏曲しか知らない。
だって難しい印象があるんだもの。
アマオケとは縁遠い。
「ショスタコ、お好きなんですか?」
「ああ。ハーモニーと変拍子と転調が好み」
現代に近いから、不協和音とか、変拍子とか、独特のものだものね。
へぇ。真木さん、こういう曲好きなんだ。