チェロ弾きの上司。


「来週はいよいよマリの初振りか」

真木さんがお鍋の蟹を取りながら言った。

マリ、、、初振り、、、

って、今度の指揮者の早瀬マリさんのこと?

「オケでは早瀬先生って呼びなよ」
「ゼッタイ、ヤダ」
「せめて早瀬さん」

あたしはアカリンと顔を見合わせる。

「早瀬さんと真木と僕は同い年で、昔の知り合いなんだ」

三神さんが教えてくれた。

はあ。知り合い。

「ガキの頃コンクールで顔を合わせてただけだ」
「早瀬先生も楽器やられてたんですか?」
「ヴァイオリンやってた」

ほえー。
っていうか、真木さん、コンクール出てたタイプなんだ。
ちなみに三神さんも出てた。しかもかなりいいところまで行ってた。
あたしは出たことない。


「で、三神は次の秋の定演どうすんだよ。コンチェルトやる覚悟はできたのか?」

あ。噂は本当なんだ。
三神さんがソリストでヴァイオリンコンチェルトやる計画があるって。

「うん。決めた。メンコン弾く」

えええええっ!

み、三神さん、お鍋から白菜取りながら言うことじゃないですっ!

メンコン。メンデルスゾーンのヴァイオリンコンチェルト。
哀愁漂う出だしの旋律が有名な人気曲。

よくコンクールの課題曲になるから、三神さんは小さい頃から弾いてきた曲。
たぶん今でも弾けるはず。

そうはいっても、ソリストやるっていうのは、相当な覚悟がいるんじゃないかな⁉︎
ただ弾けるのと、お客様に聴かせるのとでは、大きな開きがあるもの。


「ほー。あれだけ断り続けてたのに、どういう心境の変化だよ?」
「秘密」
「女か」
「まあね」

ええええっ! 驚き再び。

「彼女ですか?」
アカリンが目をキラキラさせてる。

「んーまだ彼女じゃない」
微笑む三神さん。

うわあ。重大な秘密をきいてしまった!
三神さんの好きな女性、どんな人なんだろ?

それにしても、三神さんのメンコン、すっごく楽しみ‼︎

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