チェロ弾きの上司。
返す言葉に悩んでいると、真木さんは構わず先へと進んでいく。

「また三神の妄想でもしてたか」

なんでわかるんですか⁉︎

「それよりまず、目の前のカルテットを何とかしたほうがいいと思うが」

……おっしゃる通りです。

「もっと自信持って弾けよ。セカンドはお前しかいないんだから」

そんなこと言われましても。

……会社で音楽の説教されると思わなかった。
やっぱり上司とカルテットなんて、やるもんじゃない。

「そんな顔するなら、反論してみ」

真木さんが窓に寄りかかって腕組みをして、こちらを見てる。
片方の口角をきゅっと上げて。

その姿が眩しくて、あたしは机に置いてある小さなサンスベリアを眺める。
眩しいのは、あー、ほら、窓を背にしてたからだな、きっと。

あたしは、一生懸命、頭の中で言葉を組み立てて、口に出した。

「……自信は、積み重ねるものなので……すぐには無理です……」

「……ごもっとも」

真木さんが笑って言った。

通じた?
わかってもらえた?

「後半に期待してるよ、モッチー」


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