チェロ弾きの上司。
チューニングが始まる。

今日は、サン=サーンス交響曲第3番から。
席は全席パートリーダー指定。
あたしは3プルトの表。
(弦楽器は譜面台を2人で見るんだけど、その2人1組がプルト。客席側が表、反対側が裏)

真木さんは、2プルトの表にいる。

管楽器がチューニングしている間に、早瀬先生はジャケットを脱ぎ、スコアを広げ、腕時計を外して譜面台に置き、タクトを取り出した。
仕草がやっぱりお上品だなぁ。

管楽器の後、弦楽器。

コンマスのA(ラ)に合わせる。

全員Aを合わせ終わると、その後各自他の弦を合わせていく。

周りは調弦を終えて静まってきたけど、セカンドの後ろの方からまだ音が聞こえるので、あたしも音を出してあげる。
最後のひとりになるのは結構恥ずかしいもんね。

セカンドの後ろの音がやんだ。
うーん、まだ微妙にうなってたけど、許容範囲内かな?
と思って音を止めた時だった。

「セカンドの彼、焦らなくていいから、最後までしっかり合わせて」

早瀬先生が静かに優しく言った。

セカンドトップの永野さんが後ろを振り返り、人差し指で、もうちょっと上、と合図してあげてる。

がんばって。もう少し。……うん。
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