チェロ弾きの上司。
「はい、それでは、サン=サーンス、頭から」

言ってタクトを構えた途端!
雰囲気がガラリと変わった。

すごい目ヂカラ!
全身からみなぎる気迫に圧倒される。
オケのみんなの空気も、ピリッと引き締まった。

アウフタクトとブレスの音がして。

入りがぴったり合った。

うわー、さっきの、何⁉︎

正直、よくわからない指揮者もいて、コンマスかトップ頼りになることもあるのに、さっきのは、ここだ、と思って弾き出せた。

その後も、わかりやすく、弾きやすい。

さらに、目ヂカラとよく通る声で、演奏してる最中に指示を出してくる。

「ヴァイオリン、頭拍意識して!」
「木管もっとエスプレッシーヴォ!」
「低弦ピチカート硬く!」

直らないと、曲を止めて、具体的な解決策を提案してくれる。
例えば、頭拍休符の後の入りを単に“合わせて”って言うだけじゃなくて、休符でブレスするとか、自分の中で“ン”を歌うとか。

演奏してみて、それがいい結果になると、嬉しそうに微笑んで、オーケーサインを出すの。
あ、こうすればいいんだ、ってわかるから、後戻りせずに進歩していけてる実感がある。
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